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PINK FLOYD / LIVE IN JAPAN KURONUSHI 1972 (2CD)

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日本のロック黎明期ともいえる70年代初頭から数多くのアーティストが来日し、情報が限られていた当時、今まで書籍でしか知ることの出来なかった海外アーティストを実際に目の当たりにする機会が多く、まるで夢のような時代であった。そしてピンク・フロイドの来日公演は今まで3回行なわれている。初来日が1971年、そして翌1972年にも来日公演を行なっている。驚くべきことに初来日時は東京ではコンサートは行なわれず、箱根で2度、大阪で1度の、計3回のみのステージであった。おそらく東京在住のファンは、1972年、2度目の来日でピンクフロイドのステージに初めて接したのではないだろうか。

ピンク・フロイドは1971年11月に「おせっかい」リリースに伴うツアーを終え、その後再び次のアルバムのレコーディングに時間を費やすことになる。そして次作のテーマとして掲げられたのが「人間の内面に潜む狂気」を音楽で表現することであった。このような難解なテーマと複雑な構成は、何度も推敲が重ねられ後、『狂気』として結実するが、リリースは1973年3月で待たねばならなかった。しかも、その間もツアー日程は組まれており、フロイドはツアーを通して『狂気』の練度を上げていく選択をすることになる。実際に、既に予定されていた1972年の年初から始まった英国ツアーでは、早くも『狂気』が披露されている。

今でこそチャート・アクションを含め歴史的名盤の地位を確固たるものとしている『狂気』であるが、当時は純粋なピンクフロイドの新曲としてステージされている。ほとんどの聴衆にとって初めて聴くであろう『狂気』に対し、その世界観は既に只者ではない雰囲気を醸しており、ステージで展開される幻想的な光景にただ固唾を飲んで見守っている様子が当時のオーディエンス録音から伺える。その一連の延長で行なわれたのが1972年の来日公演であった。ここでも未発表だった『狂気』がオープニングから既に全編を通して演奏されている。

アーティストにとってステージとは何であろうか。ポールマッカートニーは「ビートルズ時代でも新曲より『シー・ラヴズ・ユー』といった曲の方がウケた」と述懐している。観客はレコードで擦り切れるほど聴いた曲をコンサート会場で生演奏で聴くことに楽しみを感じているのがよく理解できる証言である。またアーティスト側の視点では、新曲を披露することで曲の反応をダイレクトに確かめるという意図もあったのではないか。アルバム制作中にもツアーが組まれており、レコーディングの過程で、ステージにおける反応をアルバム制作に反映させる意図があったと思われる。またこれはレコーディングとリリースの時間差から生じる現象だが、ステージで演奏した新曲を再度聴きたいがために後にリリースされるアルバムを購入してもらうといった、プロモーションとしての意図もあったと思われる。レッド・ツェッペリンが既にレコーディング済でありながら未リリースのニューアルバムの曲を積極的にステージで演奏していたのも、おそらくそのような理由からであろう。

しかしピンク・フロイドの場合は、上記のいずれにも属さないまた別の理由があるように思える。1972年のステージでは『狂気』全編がオープニングから演奏されているが、なにせリリースより1年以上前のアルバムをまるごと演奏しているのである。そして本作などで聴くことが出来る『狂気』は、骨格こそリリースされた『狂気』であるものの、はっきり言って未完成の印象を払拭できない。未完成というよりもスタジオ・アウトテイクを聴いているような別バージョンなのである。最も別バージョンというのが語弊があるのであれば、まだ熟成されていないという表現の方がピタリとくるであろうか。ピンク・フロイドにとっても『狂気』に対しては特別な意識があったのだろう。ツアーを通して繰り返し演奏することによって練度を高め完璧な最終形に近付けていこうという、従来にない意図があったのではと想像する。

学生時代の藤子不二雄が初めて手塚治虫の自宅を訪れた際、わずか300ページの「来るべき世界」に対し、元々1000ページもの原稿があり、削った700ページ分があの濃密な作品を支えている事を知り驚愕するエピソードがある。ピンクフロイドの『狂気』があのように隙がなく、終始緊張感が弛緩することなく濃密な作品となっているのは、このように1年かけてステージで熟成させていった結果なのだという事がよく理解できる。後世の人たちにはアルバム『狂気』のみが残るであろうが、当時、ライヴに臨場したファンは、幸運にもこのように、長期に渡る熟成期間があの名盤を支えている事を知っている。その一端が、本作に収録の1972年日本公演なのである。

1972年の日本公演は東京2回、大阪2回、そして京都と札幌と、合計6公演が行なわれている。交通網の発達している現在の目で見てもハードなスケジュールで、特に東京から京都までは5日連続公演である。本作はその初日1972年3月13日札幌公演を収録している。前述のように前半は『狂気』がフルで演奏されている。興味深いのは前半が終了した後に糸居五郎がアナウンスを入れる内容である。当初1月のステージでは『A Piece for Assorted Lunatics』と紹介されていたが、既にこの3月の時点で『The Dark Side Of The Moon』とタイトルが変わっている点。『狂気』という日本語タイトルはまだないという点。なお、当日会場では『月の裏側-もろもろの狂人達の為への作品-』という歌詞カードが観客に配布されたとのことである。そして11月に英国でリリースされる新曲であると紹介している点。11月を予定していたリリースが翌年3月にまで4か月もずれ込むのは、やはり完璧を求めるピンク・フロイドの拘りだったのだろう。

前半が『狂気』全編を演奏し、アナウンスと休憩を挟み、後半は既にリリース済みの楽曲群が並ぶ。「吹けよ風、呼べよ嵐」はツアーポスターにも大々的に謳われた当時の日本のファンにとってピンク・フロイドを象徴する曲であった。その他、ユージン、エコーズ、そして神秘でコンサートは締めくくられる。なお、ディスク2の後半には当時ラジオでオンエアされた同日の別ソースが収録されている。さすがにマズいと思ったのか、放送後にDJが「どこの国の何というバンドでしょうねえ」とトボけた事を言っているのが面白い。これもまた大らかな時代の痕跡であろう。

ピンク・フロイドの1972年来日公演より、初日3月13日札幌を完全収録。美しいピクチャー・ディスク仕様の永久保存がっちりプレス盤。日本語帯付。

NAKAJIMA SPORTS CENTER SAPPORO March 13, 1972
DISC ONE
01. Speak To Me
02. Breathe
03. On The Run
04. Time
05. Breathe (Reprise)
06. The Great Gig In The Sky
07. Money
08. Us And Them
09. Any Colour You Like
10. Brain Damage
11. Eclipse

DISC TWO
01. One Of These Days
02. Careful With That Axe, Eugene
03. Echoes
04. A Saucerful Of Secrets

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